SpecializedがOECHSLER、Carbonと自転車サドルを新開発

サドルは、ハンドル、ペダルと並び、ライダーと自転車を繋ぐ僅か3つの部品の内の1つです。そのため、サドルの重要性は侮れません。米国の自転車メーカー Specializedは、3DプリンティングのパイオニアであるCarbon、ポリマーソリューションプロバイダーのOECHSLERと協働し、「最も快適なパフォーマンスサドルを作る」という目標を掲げ、全く新しい3Dプリントされた自転車サドルを開発しました。3社で協力して、ライダーに異次元の快適性を提供するサドルを光速で生産しました。

過去25年間、Specializedはライダーの乗り心地を改良するため、リサーチとイノベーションに多大な投資を行ってきました。SpecializedのBody Geometry手法によって問題を特定し、デザインで解決し、科学で検証することより、乗り心地の向上を実現してきました。しかし、従来の生産技術や材料(特にフォーム)では、特に快適性とライダーの安定性という点において限界に達していたのです。このターニングポイントにおいて、Specializedは、アディティブ・マニュファクチャリングでの自由な設計、迅速な製品開発、連続生産といったメリットを模索し始めました。

Carbonの革新的な3Dプリント技術を用いたS-Works Power with Mirrorは、従来は不可能だった製品特性の実現に成功した最初のサドルです。Carbon Digital Light Synthesis™(Carbon DLS™)技術の可能性を見事に示したこの製品は、受賞実績もあります。

S-Works Power with MirrorとS-Works Romin Evo with Mirror

 

限界をさらに打破するというビジョンのもと、SpecializedはS-Works Romin Evo with Mirrorという全く新しいモデルを発表しました。この製品イノベーションは、Specialized、Carbon、OECHSLERの緊密なコラボレーションから生まれ、ライダーに比類のない乗り心地をもたらします。また、Carbon 3Dプリント技術が量産に適用できることを証明し、OECHSLERがえり抜きのCarbonプロダクションパートナーとなる道を開いたのです。この結果、OECHSLERはSpecializedが今後開発する製品に責任を持ち、直接かつアジャイルに顧客との関係を築くこととなったのです。

 

経緯:

2016年にOECHSLERは大手顧客向けプロジェクトをきっかけに、初めてCarbonと提携しました。OECHSLERのアディティブ・マニュファクチュアリング、スポーツ用品担当営業副社長Markus Bischoffは「世界的なスポーツ用品メーカーにお互いを紹介され、3Dプリンティング量産プロジェクトで協力することにしました。」と明かしています。

同じ頃にSpecializedは、試作とテストを目的として、最初のCarbon M1プリンタを導入しました。SpecializedプロダクトマネージャーEmma Boutcherは「アディティブ・マニュファクチャリングは、最終製品に至るまでの無数の改良を含め、より効率的な開発期間を実現します。デザインをコンピューターから自転車に試作品を実装し、テストライダーがフィードバックするまでのスピードは革命的です。」と述べています。

2016年以降、SpecializedとOECHSLERは、Carbon DLS技術に関する深い専門知識を獲得してきました。例えば、Specializedは通常18~23カ月かかるサドルの全体的な開発プロセスを僅か13カ月に短縮しました。その一方、OECHSLERはポリマーベースのアディティブ・マニュファクチュアリング最大級の施設を構築し、世界全体で150台以上の3Dプリンタを用いて、2019年以降、年間100万個をはるかに上回る3D造形部品を生産しています。Bischoffは「OECHSLERは、アディティブ・マニュファクチャリングを産業規模に拡大することに注力し、量産プロセスを実現しています。」と述べています。

Carbon、Specialized、OECHSLERが2020年後半に協働した際、3社が直面した課題は山積していましたが、S-Works Romin Evo with Mirrorの試作品を4カ月で完成し、さらに2カ月で量産体制を整え、OECHSLERの参画から僅か10カ月で製品の発売を実現しました。

 

S-WORKS ROMIN EVO WITH MIRROR – 製品・生産プロセス

開発プロセスは、テストライダーからのフィードバック分析、圧力テストのデータ収集、過去の開発プロセスで得られた知見の活用から始まりました。それをCarbonとOECHSLERのエンジニアが技術的な仕様に落とし込みました。

S-Works Romin Evo with Mirrorと従来のフォームサドルの圧力マップ比較

 

開発段階における時間的な制約が大きかったため、Carbon DLS技術のメリットは非常に重要であり、画期的な方法でプロセスを加速させました。デザイン改良を短期間に繰り返すことにより大量のデータを収集し、合計14種類の異なるデザインの開発とテストを行いました。典型的なデザイン改良プロセスでは、気付きを製品の調整に反映するためのテスト、データ収集、データ分析から成り、平均21日間を要しました。

Carbon 事業開発ディレクター Kelley McCarroll-Gilbertは、プロジェクトについて「アディティブ・マニュファクチャリングの量産適用によってのみ実現できるあらゆるメリットを最大限に活用した画期的な新しいサドルを開発するために、OECHSLER、Specialized、Carbonチームが協力して、デザイン、プリント、テストの繰り返しを迅速に行ったのは素晴らしいことです。」と語っています。

試作品の最終版に基づき、OECHSLERのエンジニアは、性能やデザインを損なうことなく、歩留まり向上、生産性向上、環境負荷低減を図るため、プリントファイルを量産用に最適化しました。

OECHSLERの非常にフレキシブルなCarbon DLS生産は、靴のソール、アメフトヘルメット内装材といった様々な用途のプリントで生産能力を実証済みでした。しかし、マット仕上げの外観を実現するには、レーザーを用いた後工程を開発、検証する必要がありました。最初の試作から量産まで、OECHSLERのプロセススペシャリストはこの後工程を、4ヶ月という記録的なスピードで開発しました。

成果:6か月というプロジェクト期間で試作から製品化までを実現

S-works Romin Evo with Mirrorプロジェクトの時間軸

  

S-works ROMIN EVO WITH MIRROR発売

S-Works Romin Evo with Mirrorは、パフォーマンスサイクリング市場向けに特別に開発されました。こういった用途では、ライダーが感じる快適性、骨盤の安定性、軟組織の状態において最高レベルを満たす必要があります。シートが快適でないと、怪我や擦り傷に繋がり、ライダーのパフォーマンスに直接影響します。

Specialized、Carbon、OECHSLERが協力して、エンドユーザーの新しい乗り心地を実現しました。格子の形状、22,000本の支柱の太さ、セルサイズを変えることにより、格子構造の減衰や反発特性を制御できます。これにより、S-Works Romin Evo with Mirrorの異なる部位に異なる減衰特性を持たせ、優れた快適性をもたらしています。フォームと比べ、全体で坐骨への圧力を18~26%低減しています。

S-Works Romin Evo with Mirror:190グラム、260mm長、143mm or 155mm幅

S-Works Romin Evo with Mirror saddle のサイドビュー

  

未来への視線

プリンタ本体、ソフトウェア、材料から成るCarbon技術プラットフォームは、量産に必要なプリント品質と生産性を実現し、優れた製品に要求される特性を有する材料を提供しています。

 

「Specializedは当初から、イノベーションと新たな高性能部品を市場に送り出すことについて明確なビジョンを持っていました。SpecializedチームとOECHSLERチームの両方と緊密に協力し、サイクリング市場に新たなCarbon DLS製品を提供し続けるのを楽しみにしています。」

KELLEY MCCARROLL-GILBERT Carbon事業開発ディレクター

 

Specializedは、提供する製品のあらゆる面でライダーにメリットをもたらすことを目指しています。そうすることで、従来の製造技術の限界を打破し続け、自転車市場に新しい基準を打ち立てています。特に、イノベーションはSpecializedのDNAの一部でもあるため、このような取り組みは当然のことなのです。

OECHSLERは、製品開発と製造におけるエンジニアリングの専門知識と、試作や少量生産から量産への迅速な規模拡大能力により、ポリマースペシャリストとしてふさわしい先進的な製造の総合サービスプロバイダーとなっています。

現在、OECHSLERはSpecializedとサドル以外の新たな用途を模索し、自転車市場でのさらなるイノベーションを目指しています。Carbonがハードウェア開発と技術を提供し、OECHSLERが開発から連続生産までの統合的な総合サービスを提供するパートナーなのです。